ロナルド・イングルハートを中心とした社会学者が定期的に行っている世界価値観調査(詳細はWikipedia参照)を元にして、イングルハート-ヴェルツェル図と呼ばれる文化的価値観の世界地図が作られたことは、比較的有名。
ホフステードによると、X軸はホフステード指数IDV(個人主義vs集団主義)とIVR(放縦vs抑制)に分解でき、第三次産業の比率と強く相関(.73)しているそうだ。日本は、ホフステード指数IDV やIVRによると、個人主義でも集団主義でもないし、特に不幸でも幸福でもない ちょうど中ぐらいの位置にある。
Y軸は、伝統vs世俗性・合理性の軸で、日本がこの軸でトップになっている。要するに、宗教なんか信じない世界で一番の実際主義者だと言うこと。同じくこの軸は、ホフステード指数LTO(長期志向vs短期志向)と強く相関している(.72)。良いことじゃないかと思われる日本人も多いかと思うが、世界の平均的な人々はより敬虔であり、そんな人々から見ると、日本人は二枚舌に見られかねないと言うことでもある。
この地図では、日本と他の東アジアの国々が同じ「儒教的社会」として分類されているが、その間の距離は、地図を見ての通りドイツや東欧よりも遠いのである。
逆に、ホフステード指数を使った文化的距離で日本と最も遠い北欧の国々(デンマーク2.67、スウェーデン2.60、ノルウェー2.49)が、この地図では随分近くに描かれている。それで、「この地図、なんかおかしくない?」と思っていたが、そうでもないらしい。スウェーデンは、キリスト教国と思われているが、そうではなく無神論者の比率が世界一高いのだそうだ。
The World’s top 12 least religious countries
昔々フランス留学の時代に、スウェーデンの女性が同じクラスにいたが、このyoutubeの映像のように、何か冷静な印象を受けていたことを思い出す。このYoutubeでの話を聞いても、とても理性的なことに感心させられる。
スウェーデンの人々は、日本人同様に実際主義者なのだが、幸福を理性的に追求している人々でもあるらしい。では、日本人は実際主義で何を追い求めているのだろう?
西欧の人々は、経済発展とともに、世界の人々がみな自分達のようになると考えていた。しかし、そうはならないことが段々と分かってきた。文化には経路依存性があり、プロテスタント、ローマカトリック、ギリシャ正教、儒教、共産主義の伝統は、各国の現代化にも関わらず続いている。でも、イングルハートは「経済発展は、各国文化を、絶対的な規律と価値から、合理的で寛容で信頼と参加の方向に向かっている」となお考えている。本当だろうか?
参考までに、イングルハート-ヴェルツェル図の二つの軸の因子負荷量は以下の通りである:
「伝統」軸との相関係数 |
|
神は非常に重要である |
0.91 |
子どもにとって、従属と宗教心は独立と決断力より重要である |
0.89 |
妊娠中絶は決して許されない |
0.82 |
自国を非常に誇りに思う |
0.82 |
権威に対してより尊敬の念を持つ |
0.72 |
「生存」軸との相関係数 |
|
自己実現やQOLより、経済的、物理的な安全の方が重要である |
0.86 |
自分自身を非常に幸せとは思っていない |
0.81 |
陳情に署名したこともすることもない |
0.80 |
同性愛は決して許されない |
0.78 |
人を信じることには慎重であるべきだ |
0.56 |
(R. Inglehart, W.E. Baker「Modernization, cultural change, and the persistence of traditional values」American Sociological Review Feb. 2000, p.19-51)